「人を雇う」を考える・2025年版。人材会社に頼らず、「若者採用」に踏み切った理由
2025年01月25日
人の採用に試行錯誤を続けて苦節17年弱
「人を採用しよう!」――開業から5年超を経て、「1人事務所」のマンネリに陥っている状態に危機感を覚え、初めて1人の若者を雇ったのが2008年4月のこと。そこから17年弱、独立から数えると23年弱。おかげさまでクライアントの数も売上も右肩上がりに推移し、経営としては比較的うまくいっているほうだと思います。
しかし、唯一といっていいのか、思うようにはうまくいかず、紆余曲折を経てきたのが人の採用でした。
その推移については、当コラムでも数回に渡り、経緯を綴ってきました。お恥ずかしながら、ご興味ありましたら、以下の過去コラムを読んでいただければと思います。
- 「人を雇う」を考える (2008年03月10日)
- 「人を雇う」を考える 2 (2008年07月07日)
- 「人を雇う」を考える 3 前編 (2008年08月22日)
- 「人を雇う」を考える 3 後編 (2008年08月22日)
- 「人を雇う」を考える 4 (2009年06月04日)
- 「人を雇う」を考える 5 (2009年09月02日)
- 「人を雇う」を考える ひとまずの最終版 (2010年04月09日)
- 「独立20周年。人を信用できなかった私が『人の運に恵まれている』と思うようになった理由」(2022年7月01日)
ザックリ振り返ると、「資格よりも人間力」。「人生をやり直したい人、『五島道場』に来たれ」などとうたい、資格より「人に好かれること=営業力」が大事という基準で採用をしていたのが2008年からの「第1フェーズ」でした。
そこから、「奇をてらって独自性を出そうとしていた」という反省から方針を転換し、「まじめに仕事をこなせる人」に採用規準をシフトしました(第2フェーズ)。
さらに、クライアントの増加に業務が追い付かないという状況下、「イチから自分が育てる」という考えを捨て、「税理士資格保有者」の採用に振り切った「第3フェーズ」で、2014年12月、現・共同代表の布瀬川えり税理士が入所します。
大手の税理士法人トーマツ(現・デロイト トーマツ税理士法人)でキャリアを積んできた彼女ですが、育児との両立をしたいと自宅近隣で就職先を探していたところで、お互いに幸運な出会いとなりました。
インターンで出会った学生に「人生プラン」をプレゼン
そこから事務所を法人化し、オフィス環境も整備。経営も一定の落ち着きを見せたものの、人手不足の時代に突入し、「ぜひ一緒に働きたい」と思える次の人材になかなか出会えない時期が長く続きました。
当事務所の採用を長くサポートしてくれていた株式会社クロコ代表・谷田部浩輝さん(現在は教育研修を担当してくれています)にも、ちょくちょく相談する中、税理士試験の受験者の高齢化が進んでいるといいます。他にもいい就職先がたくさんある売り手市場で、有望な若い世代にとって、「税理士=魅力的な職業」に映っていないのが現実でした。
普通に税理士希望者を募集しても状況は厳しい。ならば、採用対象を学生にシフトし、この仕事の魅力から伝えていこうと考え始めたところで、第4フェーズの若者採用にシフトする決定的な転換点がありました。2023年5月、谷田部さんの紹介で、当時お茶の水女子大学の3年生だった相沢華音さん(2025年4月入所予定)がインターンの面談に来たことです。
一流大学の学生だからということだけでなく、インターン中の課題も熱心に取り組み、クライアントの元に同行してもらうと、社長からの評判もいい。
しかし、当然ながら誰もが知るような大企業のインターン活動も並行して実践しており、企業の経理部への就職を志望しているといいます。
「もし入所してくれたらいいな」と思い、月1回のミーティングでそれとなく勧誘はしていたものの期待はしていませんでした。
結局、その翌年の3月、彼女は当事務所の入所を決意してくれるのですが、その後押し材料になったかは不明ながら、インターン開始から数か月経った夏、相沢さんに勧める「行動計画」をプレゼンしたことがあります。
「目的・幸せな人生を送る」「目標・継続的にお金を稼ぐ」を実現するうえで、「本人」「世の中の傾向と社会環境」などの現状分析、課題、今後必要となるであろうスキルなどを踏まえ、メリット・デメリットと共に、5つの人生プランを彼女に提案。「海外留学」の次に勧めたのが「税理士事務所で働く」というプランでした。
「メリット」として挙げたのが、「税理士資格を目指し、正解があり競争社会に身を置ける」「組織が小さいので、専門的な仕事を網羅的に身につけることができる」の2つ、デメリットに挙げたのが、「世界で活躍するチャンスはなくなる」「競争がない」でした。
ちなみに、プレゼンした翌日の朝、「やっぱり私はいいです」とあっさり断られたのですが(苦笑)、大手企業のインターンを受けていく中で、考えるところがあったようです。ともあれ、あきらめずに誘い続けたことは、良かったポイントの1つだと思います。
学生起業家にも採用活動を展開
インターンと並行し、学生起業家にも採用活動を展開しました。ここで力強いサポート役となってくれたのが、若手起業家を集めたイベントなどを開催していた株式会社duoc代表の石井祐之介さんです。
保険加入や相続プランなどの支援をお願いしているファイナンシャルプランナーの石井雷大さんに、「若手採用を進めている」という話をしたところ、なんと息子さんがそういった活動をしていると聞き、紹介を依頼することにしました。
そのツテから来てくれたのが、2023年12月より正式入所した三浦光希君(Kajiba株式会社代表取締役)。お金回りのインフルエンサーとして16万人ものフォロワーを擁し、活躍している彼ですが、付き合っている彼女との結婚を見据え、安定的なキャリアを築きたいと、税理士を志望。昨年の税理士試験で既に2か目に合格し、事務所の若手戦力としてがんばってくれています。
また、採用ではないですが、現在、当事務所のデジタル化を推進してくれている鈴木涼平君(RSfact株式会社代表取締役)との出会いも生まれ、その他、若手起業家のクライアント獲得にもつながっています。
社員の成長と成功を第一に、「魅力的な職場」を目指す
現在の「第4フェーズ=若者採用」というやり方が正解なのかの判断には、まだ時間を要するでしょう。ただ1つ、長年、試行錯誤を続けてきて言えることは、「人が来ない」「いい人材がいない」などと愚痴をこぼす前に、自分の会社が本当に「人が来たい会社」なのかを顧みることが大事なのではないか、ということです。
今、クライアントの方々に聞いても、人手不足を嘆く声をよく耳にします。けれど、条件面も含めて、本当に若者にとって魅力的な職場なのか。彼ら彼女たちが「ここなら自分が成長できる」と思える環境を整備できているのか。まずは我が身を振り返ることが先決なのではないでしょうか。
そういう私も採用を始めた当初は給料の水準も低く、スタッフが成長できる場の提供も、おぼつかないところが多々あったと思います。
そこから給料も改訂し、勉強時間の確保など働きやすい環境を整備し、ブランド以外は「大企業にも負けない」という職場環境の実現を目指しています。
また、若者とのつき合い方について相談を受けることもありますが、特別な配慮はしていません。注力していることを挙げるなら、1つは、できるだけ自分の感情を入れずに、合理的にやること。それに関連し、2つ目はスタッフの成長と成功を第一に考えること。
採用方針において、途中から「イチから自分が育てる」という考えを捨てたのですが、改めて思うのは、人は「人を育てる」ことはできない。できることは「成長できる環境を整備すること」だけだと思います。そのためには、できることは何でもするという姿勢を大事にしています。
そして、クライアントがそれぞれ違う経営課題を抱えているように、スタッフも一人一人個性が異なります。「今、何に悩んでいるのか」「何ができなくてつまずいているのか」。それぞれの課題を把握し、その課題解決に寄り添うように心がけています。
つまり年齢も立場も関係ない。クライアントもスタッフも、同じ人として、しっかり向き合い接することが肝要なのではないでしょうか。
と、少しエラそうに語ってしまいましたが、私自身もまだ試行錯誤を続けている渦中にあります。最後に、数々の失敗を続けていた立場から、人材採用に課題を抱えているクライアントを始め中小企業の経営者の方々にアドバイスをするならば、「うちは中小企業だから」という言い訳や愚痴はそろそろやめませんか、ということです。
まずは自らを顧みて、改善するべきことは何でもトライする。ユニフォームをカッコよくするでも何でもいいと思います。そして、決して大企業に負けない魅力的な職場を一緒に目指していきませんか。
顧問契約の料金には、月1回の面談も含まれています。採用や経営についてのご相談も受け付けていますので、興味をお持ちの方はお問合せください。