「人を雇う」を考える
2008年03月10日
4月から、人を一人雇うことにしました。開業して6年弱、まさか人を雇うことになるとは思いもよりませんでした。
人を雇わないだろう思っていた3つの理由。
・社長と社員との意識のズレ
多くのクライアントが抱えている問題に、社長と社員の“意識の差”があります。多くの中小企業では、社長とそれ以外の社員では、仕事に対する思いや、真剣さのギャップが大きい。すると社長は社員に対していらだちを覚える→独裁化に走る→組織が硬直化する、という負のスパイラルに陥りがちです。もしくは社員のことで悩み続けるかのどちらかです。
私自身、独立した動機のひとつに、自分が思った通りに気持ちよく仕事をしたいという思いがありました。人間ですから、人に嫌われるのも嫌ですし、悩み続けるのも嫌です。自分のペースでやるには一人がいいと考えていました。
・コスト負担
どんな業種でもそうですが、人件費は大きな問題です。
税理士事務所で、私のように一人でやっている場合、担当をつけるほどの顧問先がないと、人件費は純粋なコストになります。さらに一人でやる分には自宅兼用でも可能ですが、人を雇うとなるとそうもいきません。人件費に加えて事務所費用も毎月のコストとなります。
・顧客獲得の法則が見えない
以前勤めていた事務所時代から感じていることですが、必ずしも、「税務、税法に精通している人=お客さんが増える」とはいえません。正直なところ、いまだに何を身につければお客さんが増えるのかよくわかりません。よって、「君はこうすれば伸びるんだよ」と、社員にアドバイスができるかというと、自信がありませんでした。
人を雇おうと決意した理由とは?
・現状維持は下り坂の法則である!
いまでも仕事は一人で十分回せます。ただし、仕事の性質上もありますが、日々がマンネリ化している危惧がありました。さしあたって、生活に困っているわけでもなく、かといって、ホリエモンのように金持ちになりたいわけでもありません。現状を維持すればいいという考え方もありますが、じつは現状維持は非常に危険な状態です。現状維持=下り坂を意味するからです。クライアントでも、社長のモチベーションが低下したり、現状維持に甘んじたりすると、途端に業績が悪化することが多いのです。
自分自身、5年が過ぎ、目標だったクライアント数も獲得。なんとなく、気が抜けているような気もしました。ここで、新たなチャレンジをするべきではないか。そこで、「人を雇おう」と考えたのです。
では、どういう人を雇おうか?
まず、会計事務所経験者はやめておこうと思いました。もちろん事務所経験者のほうが未経験者を雇うより、業務負担は数倍楽になります。が、私見ではありますが、すでに“色”が付いている人はやめておきたいと考えたのです。
実際、クライアントでも経験者を優先したばかりに失敗しているケースが多い。履歴書に書かれていた経験や職歴だけで決めたことが原因のようです。経験や職歴は採用時の大事なポイントではあります。が、何より重要なのは、その人間がどれだけ会社のカラーと合うか。相性に尽きると思います。
職種にもよりますが、前の会社での経験や職歴が邪魔になることも多々あります。新人で会社のカラーを刷り込むほうがうまくいくだろう、と考えたのです。
私が、どういった人をイメージしたか?
「営業経験者でコミュニケーションが得意。しかし、いまの仕事を一生やっていていいのだろうかと疑問に思っている人」。これが私の理想とする人物像でした。
どんな仕事にも共通しますが、とくに、個性豊かな中小企業の社長に気に入られるにはコミュニケーションがモノを言います。簿記や税法の知識は後からいくらでも覚えられます。が、イチからコミュニケーション技術を学ぶことは非常に難しい。
そこで、まずは知り合いの証券マンや大学の後輩など見込みのありそうな人に声をかけてみました。が、残念ながら、大企業から小さな税理士事務所に呼び込むほどの上手な説得ができず、失敗しました。
そこから、HPで求人をスタート!
HPに数か月、求人情報を載せたところ、3人の応募がありました。1人目は現役の証券マン。履歴書を見る限り何となく期待感が膨らみます。
そして面接。するといきなり「友人が税理士資格を取るので、自分は実務を覚え、2人で数年後に事務所を構えたい」という話をしてきました。一人でやっている当事務所なら、仕事を覚えやすいと考え、応募してきたようです。なかなか現実的ではありますが、正直そういった話を面接で言うのはどうなのかな?と思いました。最初から辞める前提の人間を雇うほど余裕があるわけでもないのでご遠慮願いました。
そして、2人目の応募者からはドタキャンを食らってしまいます(笑)。なかなか人を雇うのも大変です。
3人目は公認会計士を目指していた若者でした。会計士をあきらめて税理士を目指すので、働きたいということでした。大学卒業後、しばらく勉強漬けの生活をしていたようで、ちょっと陰にこもった雰囲気(私も勉強だけして試験に落ち続けたときはかなり落ち込んでいましたが…)。面接で1時間ぐらい話をしましたが、正直、会話が成り立ちませんでした。重要視するコミュニケーション力にやや難があり、この方にもご遠慮願いました。
そして、求める人間に出会った。
友人などにも紹介を頼んでいたところ、コミュニケーションが得意で、かつ吸収力があるという若者を紹介されました。彼の職業は保育士。保育士は給料の割に長時間労働で、将来的にもなかなか厳しいらしい。とりあえず会って、税理士の仕事を説明。こちらが求める人材像についても話をしました。
彼の第一印象は、ズバリ「いいひと」。それも突出した“感じのよさ”を身にまとっていました。非常に重要なポイントです(私は、何らかの“特徴”をもっていることこそが顧客獲得のカギとなる、と仮説を立てています)。
さらに紹介者の推薦どおり、人の話を非常に素直に聞いている感じでした。じつは素直さも人を雇うときの大きな要素だと私は考えています。彼は会社勤めをした経験がありません。ましてや簿記の簿の字も知りません。が、私は即、彼の採用を決め、彼もぜひ働きたいと言ってくれました。というわけで、4月から当事務所は二人体制となります。
保育士から税理士事務所への転職。彼にとっても大きな決断だったでしょう。私自身も、将来ある若者を預かる身、大変な責任ではあります。毎日、彼をどう教育していくか考えています。どんなに考え抜いてもその通りにはいかないでしょうし、悩みは増えるばかりでしょう。しかし、独立して以来、久々に全力で頑張らねば! という気持ちが湧き立っています。
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