「時間単価」から、中小企業の効率性を考える
2012年10月04日
自分の時間単価を計算してみる
まずは質問です。
先月の給料と労働時間を思い出してみてください。そして、給料(円)を労働時間(時間)で割ってみましょう。この額があなたの先月の「時間単価(≒時給)」です。「あれっ! 最低賃金以下だ」……なんてことはありませんか?
このような事態は、中小企業においてより起こりやすいように思います。
大企業では、製造業などを始め、徹底して合理化が進められていることや、労働基準法などの法令順守の観点から、残業ができない(させない)システムが確立されています。個々の社員の残業時間は上司や人事部によって厳格に管理され、代休の取得や有給休暇の消化も半ば義務として奨励されています。
一方、中小企業ではサービス残業が当たり前という意識が経営者にも社員にも根付いている傾向が強い。両者ともに残業に抵抗がないようです。経営者側にとっては、「“サービス”残業」なら賃金も発生しませんから積極的に残業を減らしていこうという動機付けが生まれにくい。
社員の側も「残業が多い=会社に貢献している(やりがいがある)」と思い込んだり、賃金が発生していない分、マイペースにダラダラと仕事をしたり、といった現象も見受けられます。
“サービス残業は当たり前”が経営リスクに
とはいえ、少しずつ時代は変わりつつあります。不況を背景に、いわゆる“派遣切り”や、その他の不当解雇、過労死の問題など、労働問題が頻繁にニュースで取り上げられるようになっています。それにつれ、社員の知識武装も進み、未払い残業代の請求や不当解雇の取り消しなどを巡り、訴訟に発展するケースも増えてきました。会社に対する忠誠心も、そのあり方が変容しつつあるのです。
このように、これまで中小企業にとって当然とされてきたサービス残業が、大きな経営リスクになりつつあります。
会社にとっての時間単価とは?
では、会社ぐるみで残業をなくすにはどうしたらいいのでしょうか。
冒頭で、「給料÷労働時間」という個人の時間単価の計算方法を紹介しました。ここでは会社における時間単価について見てみましょう。
計算方法は、「売上÷労働時間」もしくは「粗利÷労働時間」になります。社員1人が1時間にいくらの売上・粗利を稼げるか、という考え方です。
日本の平均的な労働分配率(「粗利÷人件費」)は60~70%程度なので、月30万円の給料をもらう社員ならば、月40~50万円の粗利を上げることが求められます。粗利率が50%であれば、売上げにして月80~100万円になります。
ノー残業を目標にするなら月100万円の売上は1日あたりにして5万円、つまり時間単価6,250円の売上が必要となります。
サイゼリヤにおける時間単価の管理術
実際に、時間単価を上げることで、低価格を実現している企業の実例を挙げましょう。イタリアンレストランのサイゼリヤです。サイゼリヤでは加工の大半を本社工場内で一括して行ない、現場の工程の効率化をはかっています。具体的には、同社店舗のキッチンでは1人1時間6万円分までのオーダーを処理することが可能なシステムが構築されています。別途、ホール担当が2人いたとして、合計3人で1時間6万円分の売上、粗利にして約3万6千円を3人で稼ぐことになります。
サイゼリヤの客単価は約700円とファミレス業界の中でも低い水準にあります。ですが、徹底的な効率化によって高い利益率を稼ぎ出すことを可能としています。客単価が低くても時間単価で考えれば十分な利益を生み出しているのです。
無論、こうした大がかりな効率化はムリという会社も多いでしょう。
ご参考までに、時間単価を上げるために、私が実践している効率化についてもご紹介したいと思います。個人レベルでも簡単にできる方法です。
基本は非常にシンプル。とにかくすべての予定を前倒しにする。私が時間単価、効率を上げるために意識していることはコレに尽きます。1年間の目標であれば1月からスタートして3月までに、1か月の目標であれば月の上旬までに、週の目標であれば水曜日までに…と、どんどん予定を前倒しにしていきます。
「予定を前倒しするだけで、本当に仕事が終わるのかな?」といぶかしく思う方もいるでしょう。
しかし、人間というものは不思議なものです。締め切りを指定されればその日までに終わるように必死に取り組むものですし、逆に締め切りまでに余裕があれば、ついつい後回しにしてしまう。ダラダラとしてしまったりするものです。
よって、対外的な締め切りよりも早い時期を社内の締め切りと設定する。それを厳守するように、経営者が率先して取り組む。それだけで、より効率的に仕事が進み、社員の仕事への集中力もアップするはずです。
時間単価を上げるには、取引先を巻き込む工夫も必要
ビジネス上では取引先など、相手の都合に合わせなければならないことも多々あります。「相手先から書類が届かない」「取引先からのレスポンスが大抵夜中になる」。こうした理由で仕事が思うように進まないケースも身近にあるはずです。
その解決策としては、普段から相手先に早め早めの提出をお願いする。時間が合わなければ、朝からダラダラと相手のレスポンスを待つより、いっそ就業時間のスタートを夕方に変えてしまう。そんな工夫もありかもしれません。
ムダな残業をなくせば、仕事以外の読書や勉強、あるいは社外の人に会ったりする時間も増やせます。個々の社員の見識が広がれば、会社にとっても、社員自身にとっても有効なことです。
最初からムリといっていては、現実は何も変わりません。時間に対する意識を少し変えてみる。それだけで、合理化・効率化が図れるだけでなく、会社が大きく変わるきっかけにもなりうるのです。