人を育てることはできない
2008年12月05日
本当に社員は財産なのか?
先日見ていたドラマで、会社のリストラ策に対抗し、観月ありさ扮するヒロインほか総務部員らが、「人は宝だ」という額を社屋に掲げるシーンがありました。実際、「社員は財産」、「人こそが大事」といった社訓(理想)をうたいつつも、そうもいかないというのが現実なのでしょうか。
私の実感としては、中小企業ほど人を大事にするべき(社員一人当たりの仕事および成果の負担が大きいため)なのに、できていないように思います。“いい人材が集まらない”“残ってほしい人材ほどすぐ辞めてしまう”という悩みを経営者から聞くことがありますが、現状を嘆く前に、果たして自分が“本当に人を大事にしているのか”を考え直すべきでしょう。
ただし、“大事にする”というと、“手取り足取り教育する”ということと混同しがちですが、私は違うと思います。“子どもは育てるものではなく、育つもの”と言われるように、“社員を育てることはできない。育てる環境しか与えられない”のではないでしょうか。
今回は、8月からスタッフとして迎えたA君に対し、私なりに考え、提供した“育てる環境”について公開したいと思います。
PDCAを実践する環境づくり
まず、基本的な目標として掲げたのは、「3か月間で一通りの税理士事務所の実務ができるようにする」こと。
そのために、月単位、週単位で細かく目標を設定。慣れてきたら、目標から本人に設定させるようにしました。ただ、ぼんやり目標を設定して、内々で「できた、できない」で終わっては意味がありません。日々、実行した内容を反省し次につなげる“仕組み(環境)”が必要です。
そこで、設定した計画、実行、反省をブログに公開。PDCAおよびプレゼンの練習(どうすれば不特定多数の相手、ひいてはクライアントから気に入られるかを探す)として利用しました。
方針としては、勉強は基本的に教えない。システムの使い方も簡単にしか教えず、ましてやマニュアルめいたものは一切渡しませんでした。試行錯誤して自分なりの“答え”を見つける練習のためで、“間違えても構わない”という前提つきです。よって、3か月間、実務に取り組んでもらいましたが、あくまでも勉強のため。仕事上の戦力としては計算に入れず、地道に“自分を伸ばすために”取り組んでもらいました。
4か月間実践したことは?
以後、具体的にやったことを公開します。
○ 1、2か月目
- 簿記2級、FP3級の勉強→試験合格を目指す。
- 会計、申告書のシステムの入力練習→システムに慣れると同時に試行錯誤の練習。
- 本を週2冊読破→経済、金融を中心に課題書を提供。短期で理解することを目標に読んでもらう。
- 投資したい銘柄選択→世の中(とくに経済)のしくみを銘柄選びという作業を通して理解をする練習。
- 専門的な用語集の作成→税務などの専門用語の勉強と相手への伝え方の練習
- 顧客訪問の同行→クライアントの仕事に対する意識の高さを目の当たりにすることで、自分の未熟さを知ってもらう。
○ 3か月目
- 法人税、消費税を、システムを使わずに計算する練習
- 実務上頻度の高い法人税、消費税等の項目を集中レクチャー
- クライアントの業界の特性をレクチャー
- クライアント先での作業を実際に行ってやってもらう
- 新規開拓のアイデアを考える
○ 4か月目
- 新規開拓を実行に移す。
- 一からクライアントに合う会計システムを構築させる練習
- 少し難易度の高い申告書の作成
第三者の多大な協力を得る
その他に、若者の指導に長けている友人の中竹竜二君(早稲田大学ラグビー部監督)の元へ武者修行(研修)派遣。学生時代の後輩の伊部洋君(アリコジャパンのバリバリの営業マン)には営業の心得をレクチャーしてもらいました。このサイトの運営管理者の齋藤祐也君には新規開拓のヒントを提供してもらうなど、さまざまな方に多大な協力をいただきました。
さて、幾多の試行錯誤をくり返しながら、なんとか08年末を迎えました。ともかく量は質を超えるというのか、A君はかなりの経験ができたようで3か月前と比べれば大きく変身(いいほうに)を遂げてくれたように思います。
もちろん仕事の本番はこれから。今後どうなっていくのか、私自身も“育てる環境”の提供に試行錯誤する日々は続きそうです。