事例研究・社長とのガチンコ対談 PART2
2011年08月16日
久しぶりに、クライアント社長との対談を復活。今回は、創業4年目という若い会社ながら、IT業界で着実に売上を伸ばし続けている株式会社サル・魚住琢社長との対談です。
魚住社長、いやいつもどおり「魚ちゃん」と呼ばせていただきましょう。出会った当時、彼はクライアントだった企業の一取締役でした。ところが、ひょんなことから意気投合し、いわば友達のような関係から付き合いがスタートします。
その後、一念発起して独立。今はクライアントと税理士という関係ながら、以前どおり本音の付き合いが続いています。彼の独立の経緯を振り返りながら、順調に成長する中でいかに危機感を持ちながら前に進み続けるか、経営に対する考え方についても語りつくしました。
株式会社サル 代表取締役社長 魚住 琢
中央大学商学部卒業後、サイバーエージェントなどを経て、IT広告会社設立に参画。08年7月に独立し、株式会社サル設立。企業のウェブサイト、スマートフォンサイトなどの受託制作から、ソーシャルゲーム、iphoneアプリなど独自のコンテンツサービスも手がける。
最初の飲み会で意気投合
- 五島
- 最初に会ったのって、5年前ぐらいだっけ。
- 魚住
- そうです。当時、僕は取締役という立場だったから、ダイレクトに仕事の絡みはなかったんですよね。
- 五島
- 色々話すようになったきっかけは、最初の決算後の飲み会だったかな。
- 魚住
- 確か五島さんが酔っ払って、「何を目指しているんだ?」みたいなことを突っ込んできて、僕が「自立すること」って即答したんですよ。そうしたら、「よし、がんばろう!」とかって五島さんが握手してきた…(苦笑)。
- 五島
- 2人だけミョーに熱くなって、他のメンバーはすっかり引いてたけど……(爆笑)、そこから時々飲みに行くようになったんだよね。
- 魚住
- だいたい仕事のマジ話ばかりで…。
- 五島
- でも、だんだん会社のグチが多くなってきたというか、魚ちゃんの元気がなくなっていったよね。
- 魚住
- 自分の仕事に対する思いと、会社の方向性の違いでくすぶり始めて…そんなつもりはなかったけれど、グチっぽくなってかもしれない。でも、「会社が間違っている、自分のほうが正しいはずだ」って、五島さんに思いをぶつけるたびに「文句あるんだったら、自分で会社やってみなよ」って言われていた。今、経営者の立場になって考えてみると、言わずもがなのことなんですけどね。確かにその通りだと思い始めて半年過ぎたあたりから、独立をマジメに見据えて、準備を始めたんです。
ハッパをかけられて独立を決意
- 五島
- じつは、他のクライント企業でも、たまに仲良くなった社員からポロッとグチを聞くことがある。そのたびに「会社をやるってことは甘いもんじゃない」という思いで同じことを言っているんだけど、本当に辞めて独立した人って魚ちゃん(=魚住社長)が初のケースだった。最初に聞いたときは、「おお、ホントに辞めるんだ」ってちょっとビックリしたけれど、うれしくもあったかな。少し心配でもあったけれど。
- 魚住
- ゆくゆくは独立するのが目標だったんです。前にも言ったように「自立したい」という思いが強かったから。ただ、何となく「3年間ぐらいしてから独立かな」とぼんやり考えていたんですが、「グズグズ言っているんだったら早く独立したほうがいい」と五島さんに言われて、決心がついた。今、考えると早めに行動して良かったですね。
- 五島
- 独立すると決めたら急にふっきれたように生き生きとし始めたもんね。
- 魚住
- 今、こうして振り返ると、最初に「自立」の話で2人意気投合したのは暗示的でしたね。
本音を言い合える関係に
- 五島
- 最初から「こういう会社にしたい」というのは明確だったの?
- 魚住
- 会社員時代はインターネット広告分野でキャリアを積んできたわけですが、サルではオリジナルのコンテンツ制作などクリエイティブ分野に事業を拡大しました。サイバーエージェント時代の同僚だった二村(康太・現同社取締役兼クリエイティブデザイナー)がパートナーとなったのが大きいですね。彼とは、会社名を決めたり、ロゴを作ってもらったりと、起業前から一緒に動いてきた。事業フィールドが広がっただけでなくて、価値観が合うというか…、一緒に上を目指せる右腕ができたのは心強かったです。
- 五島
- 独立前に、「五島さんに会ってほしい人がいる」って言うから、恋人か結婚相手かと思ったら、二村君だった(笑)。
- 魚住
- 冗談抜きで誰と一緒に会社をやるかはすごく大事だと思っていたんで、五島さんにも客観的に評価してほしかったんですよ。こんなこと、税理士さんにお願いすることじゃないけれど、五島さんはいい意味で税理士らしくないというか(笑)、本音で意見を返してくれると思ったんです。その後も、税理士業務以外のいろんなことを相談してますけど、辛口ながら親身にアドバイスしてくれる。新米経営者としてはありがたいです。
数字以外の「不安」を解消するために
- 五島
- でも、魚ちゃんみたいに新しいことにもチャレンジしつつ、第三者の意見にもよく耳を傾ける人というのは意外に少ないかもしれない。経営者というと「石橋叩いて渡る」タイプか、「わが道を突き進む」タイプか、に分かれがち。攻めつつ、常に慎重な姿勢を崩さないのが、上手くいっている要因のひとつといえるだろうね。
- 魚住
- 慎重というか、不安なのかもしれない。失敗した人の話を聞くと、常に油断はできないと思うんです。だから、毎月、数字のやりとりをするだけじゃなく、必ず五島さんと顔を突き合わせていろんな話をするのは、ぼくにとっての一種の「確認」作業なんです。今は売上が右肩上がりでも、「このステージで陥りがちな“落とし穴”はなんだろう?」とか。
- 五島
- いろんなクライアントの事例を見てきて、一歩引いた立場からアドバイスできる部分はあるかな、と思っているけれど…。
- 魚住
- それも、経営状況(数字)を踏まえた上で意見を言ってくれるからありがたいです。助成金の申請とか人件費の設定なんかも、社労士とはまた違う視点でアドバイスを受けられるのは心強いですね。
“伴走者”として背中を押す
- 五島
- とはいっても、自分ができることは限られているというのは自覚している。実際に行動するのはあくまでも社長だから、ね。言ってみればランナーは社長で、僕は伴走者。だから、順調に快走しているときは極端なことを言えば必要ない存在。でも、長く走り続ければ誰でも息切れがするときもあるし、このまま走り続けて大丈夫なのか、不安になることもあるよね。その時が出番かな。
- 魚住
- 確かに。背中を押してもらったり、あるいはコースを外れそうになったら、さりげなく誘導してもらったり…。
- 五島
- それも、ずっと一緒に走り続けて状況がわかっているからこそ対応できることがあると思っている。だから長期スパンでつきあって、色んなことを話せる関係でいたいと思っているんだよね。もちろん、クライアントが税理士に求めるものはさまざまだけれど、僕としては「応援しながら、刺激し合いつつ、一緒にゴールに向かって走ることができる」ような関係でありたい。
スタッフの自立が今後のカギ
- 五島
- 今後の課題として、考えていることはあるの?
- 魚住
- 設立当初は、「何でもやります」という姿勢でがむしゃらにやってきたんですが、今後は取引先との関係性も含め、質の向上を重視していきたいですね。五島さんとクライアントとの関係にも通じる話ですけど、お互い高めあえるようなチームでもっといいモノを作っていきたいという思いが強いです。
- 五島
- その意味では、スタッフ全員の「自立」がかぎになってくるんだろうね。魚ちゃんが「自立」を志し、独立という形で一歩を踏み出したように、今後は社員全員が自分の足で立てるようにすることが、会社全体の底上げにつながってくるんじゃないかな。
- 魚住
- まだまだスタッフ全員が若くて未熟な部分もありますが、その分、パワーもあると自負してます。「みなが一つの方向をむいて、会社を盛り立てる」という意識は上向いてきたように思うので、さらにクオリティを上げていくことに注力していきます。これからも、ビシビシ、本音の“五島節”でサルを見守っていてください!
五島の目
熱い思いと冷静さ、慎重な姿勢と野心。対極にある素養を持ち併せているバランスの良さが魚住社長の強みだと思います。また、パートナーの二村氏との関係性が良いのも特徴。友達同士で会社をやるとなかなかうまくいかないケースも多いのですが、キャラクターが違う分、いい形で補完しあえているのでしょう。もちろん会社として若いゆえ、荒削りの面もある。本文でも触れたように、他のスタッフの成長が課題でもあります。ただし、それはまだまだ成長の伸びしろがあるということにも通じる。昨年から沖縄に新しく拠点も構え、ノリに乗っている様子のサル。これまで通り慢心することなく、伸びていってほしい。“伴走者”としてずっと見守っていきたい会社の1つです。