東京都渋谷区・新宿区の税理士|税理士法人 五島税理士事務所(五島会計事務所)

税理士コラム

税理士法人 五島税理士事務所  >  税理士コラム  >  論理で攻めるか、心理で攻めるか

論理で攻めるか、心理で攻めるか

2013年05月07日

ロジカルシンキングには欠点も!?

ロジカルシンキング(論理的思考)という言葉を、聞いたことがある人は多いと思います。日本では、2001年に『ロジカル・シンキング』という翻訳本が刊行されて以来、その考え方、具体的手法が、企業向けに提唱され、ビジネス書の一大テーマとしても定着した感があります。
私自身も仕事上、論理的思考は欠かせないものとして重要視していますが、この思考法は決して万能ではなく、欠点もあると認識しています。
なぜなら、論理的思考は前提やその手法を間違えなければ正解に大きく近づく武器になりますが、実践するのはあくまでも人間です。となれば、論理だけではなく、心理的な部分も無視することはできないはずです。

頭では分かっている……けれど

論理的思考とは、「論理的に考える手法」を指します。「A=B、B=C → A=C」、あるいは「1+1=2」などが、わかりやすい例ですが、事実や数字、根拠のある判断基準を積み重ねながら、真理、答えを導く手法を指します。
ある意味、誰にでもわかるシンプルな考え方ですが、落とし穴があります。人間は論理的には「これが答えだ」と分かってはいても、必ずしもその通りに動けるわけではないということです。

例えば、論理的思考に則るならば……
・明日はテストだ
 →勉強しなければならない
・ダイエットをしよう
 →食事は抑えなければいけない

と、なるはずです。しかし、ついつい試験前日にテレビを見てしまったり、太るとわかっていても、「やっぱりダイエットは明日からにしよう」と、目の前の美味しいものに手を出してしまったりするというのは、誰にでも経験があることでしょう。
このように、頭でわかっていても、欲望や恐れ、プライドといった心理が邪魔し、非論理的に動いてしまうのが人間なのです。

“論理的”に動くには、“心理的”な動機付けが必要

つまり、論理的思考を突き詰めていけば正解にはたどり着けますが、その過程においては心理的な要素が必ず関係(邪魔)してきます。論理的には分かっているのだけれど心理的に実行する気が起きない。この人間ならではの矛盾を解消するためには、何かしらの心理的な動機付けが必要になります。
例えば、先の例でいえば、「テストで80点以上を取ればご褒美がもらえる(報酬)」、「勉強して○○になりたい!(信念)」といったものが挙げられるでしょう。あるいは自分ではなく、他人の心を動かすならば、「80点以下をとったら次のテストまでゲームはできない(罰)」といった恐怖心に訴えるやり方も時に必要かもしれません。

これは、ビジネスでも同じで、「思い入れを持って始めた事業がまったく上手く行かない」といった場合、論理的に考えれば、「その分野から撤退する」あるいは「ビジネスモデルを変える」が正解です。ただし、こうした判断は自分のミスを認めることにつながるので、心理的にプライドが邪魔し、なかなか実行に移せないことがあります。
その場合「もっと会社を大きくしたい!(信念)」「成功者になりたい(目標)」といった自身の胸の内、思いに立ち戻ることが、判断や行動を後押しすることにつながります。
さらに、従業員の心を動かすには「ここで失敗したら、給料が大幅にダウンorリストラとなる(罰)」、あるいは「いい成績を上げれば給料が上がる(報酬・ごほうび)」といった動機付けも時に有効でしょう。

 また、あえて非論理的に考えることが、無用な心理的負担を取り除くことにつながるケースもあります。例えば、何をするにも論理的には初めから100点を目指すのがベストです。けれど、従業員に対しても、あえて目標を70点ぐらいにレベルダウンし、「失敗してもいいからやってごらん」と言うことで、気楽に取り組めるのであれば、結局何もやらないよりはずっといいという結果にもつながります

論理だけでは人の心は動かせない

このように考えると、現実社会では「論理」だけでも「心理」だけでも問題は解決できない。これが、正解だと思います。
とくに「論理的に物事を考え、自分の権利は徹底して主張する」文化がベースとなっている欧米と違い、日本では時に非論理的な手法が好まれることがあります。
例えば、論理的に主張するならば「Aさんの意見は良くないと思います。理由は○○、△△です。だから~」が正解となるでしょう。けれど、いくら論理的に正しくても、こうした“正論”は、心理的に拒絶される可能性もあります。
「Aさんの意見は□□の部分ではもっともな点はありますが~」、「果たして私の意見が正しいかわかりませんが…」と相手の心理面に配慮した、いわば“持って回った”発言法のほうが、相手に受け入れてもらえたり、賛同を得られたりする確率が高まることがあるのです。
つまり、物事をうまく運び、相手と上手にコミュニケーションをとるには、「論理」と「心理」両面から考え、バランスをとることが必要なのです。

ロジカルシンキングという思考法や手法をマスターすることは、非常に大事なことではあります。けれど、あたかも“万能選手”のようにもてはやすのは危うさもあると考えるべきでしょう。
私自身、税理士として、顧客に対して論理的で的確なアドバイスをできるよう心がけていますが、それと同時にいかに経営者の思いに寄り添い、心理面でもサポートしていけるかに腐心しています。
くり返しになりますが、ビジネスを実践するのも、その対象となるのも人間です。その意味では、“心理は十人十色”ということを踏まえ、「正論が必ずしも“正しい答え”とはいえない」ということを肝に銘じる必要があると思います。

<< 前のページへ戻る  << 税理士コラムトップページへ戻る

このページの先頭へ